奇想の宮廷画家 アルチンボルド展 国立西洋美術館 ペア観覧券を5組10名様にプレゼント
この世に天才は確かに存在する。努力とは無縁の天与の才でしばしば人々を驚かせる。これに対して奇才は、誰も真似のできない、世にも珍しい才能の持ち主。鬼才というのもあるが、こちらは人間技とは思えないずば抜けた技量の持ち主だ。さしずめ、北野 武さんなどはその一人だろうか。そのような様々な才能がある中で、アルチンボルドは確かに「奇才」と呼ぶべき才能の持ち主である。
ダ・ヴィンチの影響
ジュゼッペ・アルチンボルド(1526〜1593)は、イタリアのミラノで生まれている。父は画家であり、アルチンボルドの師でもあったという。この当時、ミラノで活躍していたレオナルド・ダ・ヴィンチに倣った画家を“レオナルド好き”ならぬ「レオナルデスキ」と呼んだそうだが、彼の父もレオナルデスキの一人、ベルナルディーノ・ルイーニと親しかったという。そのためアルチンボルドもまた、写実が行き着いたグロテスクな画風から、直接、あるいは間接的にその影響を受けていた様子がうかがえる。
ハプスブルク家の皇帝に仕える
アルチンボルドは1562年にハプスブルク家が支配する神聖ローマ帝国のウィーンの宮廷に招聘され、皇帝マクシミリアン2世に仕える。ハプスブルク家は代々、武力よりも政略結婚によって領土を拡大してきたと言われており、それだけに洗練された貴族文化と社交の才によって統治能力を磨き上げていた。アルチンボルドの才能もまた、ここで遺憾なく発揮されたことだろう。ちなみに、マクシミリアン2世は王妃マリアとの間に16人の子どもをもうけており、夫婦仲の良いなごやかな宮廷だったことが想像される。
「奇想」の所以
この間にアルチンボルドが描いた『四季』と『四大元素』は、彼の代表作とされている。『四季』の《春》と《夏》は女性、《秋》と《冬》は男性を描いたものとされているが、季節の移ろいに寄せて人の一生をも表しているかのようだ。よく見ると、顔を構成する植物はどれも精密に描かれており、実際にあるものばかり。《春》には80種類もの花々が描かれているという。それが、遠くから見るとにわかに人の顔に見えてくるところが「奇想」たる所以であろう。ここでは『四大元素』《空気》、《火》、《土》、《水》のうち《水》を紹介しているが、水中に棲む62種類の魚類や海獣がリアルに描かれている。
“奇作”上下絵の不思議
アルチンボルドのもう一つの“奇作”に「上下絵」がある。作品《コック/肉》の上の絵は、肉料理で構成したコックの顔の絵だが、それを上下逆にすると、スチールの皿に子豚の丸焼きなどが載った肉料理の絵にしか見えない。同様に《庭師/野菜》の絵も、鉢を頭にかぶった庭師と称する人の顔の絵だが、これを上下逆にすると、鉢に野菜が盛られた見事な写実画が現れる。彼はこのような絵を一体、どのようにして描いたのだろうか。まさに奇才であり、奇想の画家である。このような“だまし絵”的な策を弄さなくても、静物画としてみれば極めて完成度が高いのだが、退屈な皇帝を楽しませるためには、さらなるひと工夫が必要だったのかもしれない。
人が職業人間に変わるとき
アルチンボルドのもう一つのシリーズに、それぞれの職業を表した肖像画がある。《法律家》の絵は、当時のウィーン宮廷で財政を取り仕切っていた実際の法学者の肖像で、あまりに似ているので皇帝はこの絵をいたく気に入ったそうだ。人の肖像というより、職業そのものの肖像だ。《司書》の絵にしても《ソムリエ(ウェイター)》の絵にしても、職業がいつの間にかその人に乗り移り、置かれた立場でしかものを考えたり行動しなくなったりすることをよく表している。これはもはや寓意を超えた直接的な風刺であり戯画になっているが、当時の宮廷にはこうした絵を許容する大らかさがあったようだ。
その才能、余人に代え難し
アルチンボルドは宮廷画家であると同時に、当時の宮廷での、今でいうイベントプロデューサーだったという。政略結婚で版図を広げてきただけに、ハプスブルク家にとって結婚披露宴や王室の記念日などに催される祝宴は、最も重要なイベントだっただろう。そこにこそ奇才が腕を振るう奇作のための舞台があったものと思われる。マクシミリアン2世の死後も、跡を継いだルドルフ2世のプラハの宮廷で宮中伯という高位の貴族に叙されたというから、その才能には余人に代え難いものがあったに違いない。
シュルレアリストが再評価
国立西洋美術館 主任研究員の渡辺晋輔氏によると、アルチンボルドの作品は永い間、顧みられることがなく、かなり散逸したという。代表的なシリーズ作品《四季》4点にしても、本来は1カ所にあったはずだが、現在の所蔵先はウィーン、マドリード、デンバーと3カ所に散っている。それだけに、今回のようにアルチンボルドの油彩約10点を一堂に眺められる機会は貴重だ。アルチンボルドの魅力を再発見したのは実は、1930年代のシュルレアリストたちだったというから、彼らの炯眼にも感謝しなければならないだろう。ちなみに《ソムリエ(ウェイター)》の絵は、 わが国にある唯一のアルチンボルドの作品だそうだ。
会 期:2017年6月20日(火)〜9月24日(日)
会 場:国立西洋美術館(東京・上野公園)
開室時間:9:30〜17:30(金・土曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで。
休室日:月曜日、7月18日(火)。ただし7月17日(月)、8月14日(月)、9月18日(月)は開館。
観覧料金:一般1,600円(1,400円)、大学生1,200円(1,000円)、高校生800円(600円)、中学生以下は無料。( )内は前売り券の金額。前売り券は、2017年3月21日(火)〜6月19日(月)まで販売。国立西洋美術館は6月18日(日)まで販売。
※団体割引の対象は20名以上
※障がい者手帳をお持ちの方と付添の方1名は無料
抽選で5組10名様に、国立西洋美術館「アルチンボルド展」のペア鑑賞券をプレゼントいたします。
エントリー期間:2017年3月17日(金)〜2017年4月25日(火)
※当選者の発表は、賞品の発送(2017年5月中)をもってかえさせていただきます。
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